新しいブルーカーボン
BCBC
(Biogenic Calcifying Blue Carbon、石灰化生物ブルーカーボン)
監修:安元 剛(北里大学)、鈴木道生(東京大学)、安元 純(琉球大学)
1.ブルーカーボンとは?
藻場・浅場等の海洋生態系に取り込まれた炭素のこと。2009年10月に国連環境計画によって命名されました。
代表的な生態系:海草藻場、湿地・干潟、マングローブ
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ここに『サンゴ礁』は含まれていません

・・・・なぜか?
2.従来の化学式と結論
その答えを理解するには、少々化学の話をしなくてはなりません。
長らく、海水中(pH8)における石灰化を表す反応式は以下の式が用いられてきました。
Ca2++2HCO3一 → CaCO3+H20+CO2↑
難しい話はさておき、一番最後の、CO₂(二酸化炭素)が大気に放出されるという部分が一番重要で、要するに石灰化が起こると二酸化炭素が出てくるという意味になります。
つまり、サンゴ礁を作るサンゴや貝殻を作る貝類は、せっせと二酸化炭素を海水中に放出して、海洋酸性化*¹を促進している、少なくとも二酸化炭素の吸収には役立っていないという結論となる。
3.最新の研究で明らかになってきたこと
しかし、最新の研究で、この化学式が現実を捉えていないことが明らかとなってきています。
まず、従来の化学式は、海水(SW)のpH※2が8.0~8.1であることが前提となっていた。しかし、実際に石灰化が起きているサンゴの骨格と造骨細胞の間の石灰化部位(ECM)では、pHが上昇していることが分かった(従来の化学式が正しければ、ECMのpHは下がるはず)。

(他にも様々な研究・実験・議論があるが、ここでは紹介しきれないことはお許しいただきたい)
4.新しい結論と可能性
この発見がなぜ重要か?
石灰化が起きているサンゴの体内のpH値が上昇しているということは、従来の化学式で表されたように、二酸化炭素が海水中(pH8)に放出されることはほとんどなく、速やかにサンゴ体内で利用されている可能性を示しています。
つまり、サンゴはサンゴ礁を作ることによって、二酸化炭素を排出せず、サンゴの骨=炭酸カルシウムとして、炭素を蓄積している、と言える。
(サンゴは褐虫藻という藻類と共生しているので、藻類の光合成との共生関係まで考えると、炭素固定において、森林と同様か、それ以上の機能を有している可能性がある)

石灰化生物の潜在能力

これまで、従来の化学式が強く信じられていたため、二酸化炭素の吸収源として除外されていたサンゴ礁やその他石灰化生物の生成物(貝殻など)がこれに加わることで、地球規模では膨大な隠れた吸収源となります。

自然界では99%以上が死んでしまうサンゴの卵、幼生を活かしているので、新たな「BCブルーカーボン」を作っている、と考えています。
(純粋なサンゴ再生、魚の棲み場・育成場の提供、生物多様性の底上げ、に+αの機能として重要視)
部会が作ったサンゴがどのくらいの吸収源になるか?については、現在調査中。
分かり次第、こちらで報告を予定しています。
注釈
*1、海洋酸性化:二酸化炭素は水に溶けやすい(炭酸水でイメージしやすい)ので、地球規模では大気中で増えた二酸化炭素のかなりの量が海洋に溶け込むと考えられている。海洋に二酸化炭素が溶けると、現在弱アルカリ性の海水が酸性化するので、生物および生態系に様々な影響を与えることが予測されている。特に生物の石灰化は、海水の酸性化によって石灰化能力が落ちたり、石灰化できなくなることが危惧されている。
*2、pH値:水中の水素イオン濃度を0~14の数字で表したもの。7.0が中性で、7より小さいと酸性、7より大きいとアルカリ性を意味する。ちなみに、海水のpH値は約8.1と紹介したが、これはサンゴ礁が分布する熱帯・亜熱帯の浅海域の話で、水深1000mの深海では7.4まで低下するという報告もある。また、海水のpHが1高くなると、海水中のCO2濃度は1/10に減少するため、石灰化中のCO2放出は抑制されると考えられる。
参考文献
Kubota A, Ohno Y, Yasumoto J, Iijima M, Suzuki M, Iguchi A, Mori-Yasumoto K, Yasumoto-Hirose M, Sakata T, Suehiro T, Nakamae K, Mizusawa N, Jimbo M, Watabe S, Yasumoto K* (2024) The role of polyamines in pH regulation in the extracellular calcifying medium of scleractinian coral spats. Environmental science & technology (in press).
安元 剛, 廣瀬 美奈 (2018) ポリアミンの新たな機能:CO2吸収と石灰化促進. ポリアミン, 5:14-20

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