生物多様性評価
~サスティナビリティレポートへの活用~
1、生物多様性とは
ある地域や生態系において、一定面積あたりに生息している生物の種数や量を生物多様性といいます。
サンゴ礁は生物多様性の宝庫で、地球上の海洋全体に占める面積は0.1%以下ですが、全魚類の約25%がサンゴ礁に生息しています。
動物でありながら共生する褐虫藻が光合成を行うサンゴは、植物のように一次生産者の役割を有し、食物連鎖を通して多様な生物を支える基盤となります。
また、生態系サービスと呼ばれる我々にとって有用な様々な機能を有しています。
2、生物多様性が世界的トレンドに
カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー(循環経済)につづき、生物多様性が世界的なトレンドになっています。
生物多様性条約など国際的な枠組みで、重要性が高まっており、国の戦略や制度への反映が進んでいます。
キーワード:ネイチャーポジティブ※1、TNFD※2、自然共生サイト※3etc
分かりやすく言うと、地球温暖化が問題となった結果、カーボンクレジットという二酸化炭素を貨幣換算する新たな価値観が生まれたように、生物多様性も国だけでなく民間もお金を出して守る必要があり、社会・経済活動にも直結する(企業価値・投資などの経営課題)という価値観の変化が生まれつつあります。

3、サンゴ礁の再生=生物多様性の再生
サンゴ礁は、気候変動(高水温)がひきおこす度重なる白化現象などにより危機に瀕しています。
【八重山での最近の白化現象:2016年、2022年、2024年】
これは、単純に美しいサンゴ礁が見られなくなるということだけでなく、サンゴに依存してる様々な生物が死滅しているという生物多様性のマイナスを招いています。
当部会の取り組みでは、持続可能なサンゴの再生手法を採用しており、生物多様性の再生にも寄与すると考えています。
<持続可能な再生手法>
・親サンゴを傷つけない有性生殖・・・自然界と同じ方法で増やす
・海域で完結する大量種苗生産・・・陸上施設に頼らず省エネ
・白化から親サンゴを守る技術・・・安全かつ持続的にサンゴ幼生を供給
・主にミドリイシを対象・・・沖縄のサンゴ礁では、生物多様性の基盤として重要
4、生物多様性評価と自然共生サイト
サンゴ礁の生物多様性の真の価値は、まだ未解明です。
サンゴの隙間に隠れているような小さい生き物、海藻類、目に見えないプラントンまで含めると、膨大な生物多様性が私たちが気付かないうちに消滅しているかもしれません。
当部会では、専門機関と協力し、サンゴ礁域における真の生物多様性の評価を実現させることも目指しています。
<自然共生サイト※3>
令和5年度より自然共生サイトの登録が始まっていますが、沖縄県内や沿岸域では登録数が少ない状況にあります。今後の動きを踏まえたうえで、当部会では登録を目指していきます。
・生物多様性増進促進法に基づく制度へ移行(令和7年度~)
・登録団体の支援企業へのインセンティブ(支援証明書制度)
・保全活動の評価にあたり、生物多様性評価がさらに重要視
<石西礁湖自然再生協議会の漁場再生ワーキンググループ※4>
漁場の再生に向けた考え方の検討など、サンゴの再生によるサンゴ礁生態系の生物多様性への貢献について、当部会、研究機関、環境省等の関係者で情報共有を進めています。
生物多様性評価のイメージ
ご支援をいただく企業のご担当さまへ
サンゴ再生の目標となる「産卵ファーム」は、小さなエビ・カニ類などの多種の底生生物、サンゴの周囲を棲みかとする魚や稚魚を育んでいます。それらのサンゴへ依存する生物を対象に、種の多様性を調査・解析することで、サンゴ再生による生物多様性向上(ネイチャーポジティブ)について定量的に評価します。

サンゴの成長には数年単位の時間を要し、どのくらいの大きさになったときに、どのくらい生物多様性が向上するか、といったことは未解明です。実測データをもとに、どの程度のポテンシャルを有しているかといった観点で、専門機関とともに評価手法の検討を進める予定です。
評価結果は、サステイナビリティレポートの一部として、ご活用いただけるものと考えています。



注釈
※1 ネイチャーポジティブ: 「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、2030年までに反転させること」を指す。行政主体の自然環境保全の取り組みだけでなく、社会・経済活動全体において生物多様性向上に向けた改善を促していく考え方である。2021年6月のG7において、2030年自然協約のなかで国際目標としてその考え方が掲げられ、国際的な認知度が高まっている。
※2 TNFD: 先行しているTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は気候変動に関するものであるが、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は自然資本に関連しており、企業が自らの経済活動による自然環境や生物多様性へのリスクやビジネスチャンスを分析・評価し、財務情報を開示する枠組み。開示情報は国際的な評価機関により格付けされ、ESG投資の呼び込みに繋がることが期待されており、ネイチャーポジティブ経済に資する仕組みである。2023年9月に枠組みの最終提言が公開された。
※3 自然共生サイト: ネイチャーポジティブや、その手段の1つである30by30(陸と海をそれぞれ30%以上保全する)の達成に向けて、環境省が認定する令和5年度からはじまった取り組み。身近な自然を守っていくため、地方公共団体のほか民間企業や地域団体により生物多様性の保全が図られている場所を認定する仕組みで、企業の私有地内に創出された自然環境(ビオトープ等)や、里地里山といった二次的な自然環境なども対象となる。登録団体を支援する企業へのインセンティブが検討され、支援証明書制度が試行されている。
(出展. 環境省ホームページ,生物多様性のための30by30アライアンス事務局)
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/certificate/index.html
※4 石西礁湖自然再生協議会(漁場再生WG): 同協議会は、自然再生推進法に基づき、地元住民・市民団体・漁業や観光関係の団体・研究者、行政機関など多様な主体が集まり、石西礁湖のサンゴ群集の再生に向けた取組みを進めるために平成18年2月に発足した。協議会委員などで構成される漁場再生ワーキンググループ(WG)では、サンゴ礁生態系の再生を最終目標とし、サンゴと魚の関連性や、漁業の観点から望ましい生態系の在り方などを検討している。
(出典. 第32回石西礁湖自然再生協議会_資料4)http://sekiseisyouko.com/szn/pdf/conf/kyougikai32/shiryo04.pdf
(出展. 第33回石西礁湖自然再生協議会_資料3)http://sekiseisyouko.com/szn/pdf/conf/kyougikai33/shiryo03.pdf

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